腎病の証侯
腎病には以下の方面の症状を呈するという特徴があります。
①成長発育の異常・・・発育遅延または早く衰える
②水液代謝の異常
③呼吸機能の減退・・・十分に息を吸えない(腎不納気)
④奇恒の腑の問題・・・骨・髄・脳・子宮
⑤耳・髪・二陰の問題
腎虚で常に見られる症状には腰膝酸軟があります。また、歯は骨の余であり、腎は耳に開竅し、腎の華は髪にあるので、歯牙の動揺や耳鳴り難聴、頭髪の脱毛などが一般的な腎虚の症状です。また、腎は生殖を主るのでインポテンツや遺精、不妊や月経停止と関係します。
水液代謝異常によって、もっともよく見られるのは浮腫で、腎陽虚では小便が透明で量が増加します。他にも腎不納気によって呼吸が浅くなったり、大便や小便の異常が出現します。
「五臓之傷、究必及腎」と言うように、他の臓の虚はすべて腎に影響します。
肺は気を主りますが、肺虚が進展して肺腎気虚、腎不納気になったり、 脾が虚して、脾腎陽虚に進展したり、 肝陽亢や肝陰虚から肝腎陰虚に進展したりします。
1. 腎陽虚証
腎虚の特徴の腰膝酸軟に加えて、陽虚なので冷えの症状が出現します。また、腎陽が不足すると、命門火衰し、生殖機能が減退するため、インポテンツや早漏が出現します。
腎は二陰を主るため、未消化便や明け方の下痢や夜間多尿などの症状も見られます。
冷えの症状では四肢の冷えが見られるのが典型的です。耳が冷えたり歯が冷えたりというのはあまり聞きません。腰膝・生殖・二便のこれらの症状が主体になります。
顔面がつやのある白色になりますが、それは腎陽虚では水液を気化できず、少し浮腫を伴うからです。尺脈が弱になります。
脾気虚で脾気が下陥することがあるように、腎陽虚では陽気が浮いて虚陽浮越証になることがあります。
2. 腎虚水氾証
腎陽虚または腎気虚を基礎にして、浮腫が主要な症状として出現する腎陽虚の特殊形です。特に目立つ症状は小便不利と腰以下の浮腫です。
3. 腎陰虚証
腎虚の症状として歯牙の脱落や脱毛、腰膝酸軟が見られます。
腎は精を蔵し、精は髄を生じ、髄は脳に注ぐため、腎精が不足すると、大脳機能の低下、知力低下、痴呆、不眠、健忘が出現します。精と陰は密接に関係するので、これらの症状も見られます。全身の陰虚の症状に加えて、耳鳴り、難聴、腰痛、腰がだるいなどの腎の病位を示す症状が出現します。
生殖に関する面でも陰が虚して陽が亢進するため、虚性の興奮が出現します。一般に相火旺と言われ、性機能が相対的に亢進しますが、本質的には虚であり、腎気が満ちているのではなく、仮性の機能亢進です。
腎陰虚と腎陽虚浮陽のちがいは何でしょうか? どちらでも身体の上部は熱ですが、腎陰虚は下部も熱ですが、腎陽虚では下部は寒です。
4. 腎精不足証
陰虚や陽虚などの寒熱ははっきりせず、ただ腎の成長・生殖に関する異常が見られます。
①早衰(未老先衰)・・・早く歯が抜ける、髪が抜ける、耳が聞こえなくなるなど
②先天性の発育不全・・・大泉門の閉鎖が遅れるなど
③生殖機能低下・・・不妊、性欲低下など
腎気と腎精の概念は似ています。というのは、腎精の量を測る方法はなく、腎の機能から推測するしかありません。つまり、腎の働きの低下(腎気虚)を通して腎精の不足を説明しているわけです。腎気は腎精をもって体とし、腎精は腎気をもって用としており、体と用を分けることはできず、精と気は分けることができません。
腎精不足は腎気虚と言ってもよいでしょう。
5. 腎気不固証
二陰の不固による症状が出現します。
①大便失禁
②小便失禁
③遺精、滑精
④不正性器出血、崩漏
⑤流産