肝病の証侯
肝にはどんな特性があるでしょうか?
肝気には昇発する性質があり、条達を喜び、抑鬱を悪む性質があります。
肝の経絡はとても長く、肝の働きは広く、疏泄を主ります。実際は5つの方面の疏泄を包括していて、①気の働きの調節、②情志の調節、③胆汁の分泌など消化を助ける働き、④血液の貯蔵と血の量の調節、⑤性殖に関する調節 を主っています。したがって肝の機能が失調すると、気の働き、情志、消化、生殖などの多方面の異常が出現します。また、肝の蔵血作用が失調すると、出血や血オ、血虚などの病変を生じます。
肝の病理の特徴は何でしょうか?
昔の人は肝は剛臓で、体陰用陽と考えていました。肝が機能するためには陰と血という物質の基礎が必要だということです。気を以て用とし、血を以て体とするということです。
肝気の働きが抑えられると気が昇発できず、疏泄がうまくいかず、肝気が鬱結します。一方、体の陰血が不足するとすぐに陽が偏亢し、肝陽が亢進したり、肝風が動いたり、肝火が盛んになったりしやすくなります。
1. 肝血虚証
血液が不足し、肝臓それ自身と肝が主管する組織・器官が失養して出現する虚弱証候です。
肝は眼に開竅するので、眼は肝血を得て見ることができますが、肝血が不足すると、眼のかすみや視力低下、夜盲などが出現します。
肝血が不足すれば、陰虚もまた生じることがあります。肝陰不足で、陰血不足となります。
そのほか、血虚は動風の症状を引き起こし、四肢のしびれやひきつれ、手足の震えや筋肉のけいれんなどを生じます。
肝は女子の先天とされていて、肝は血を蔵し、血が不足すると、月経の量が減少し、色は薄く、さらさらしたものになり、ひどい場合には月経が停止してしまいます。
肝血虚と診断するためには、血虚の症状は不可欠で、その中でも肝は眼に開竅するので眼瞼が白いこと、肝は筋を主り、爪は筋の余とされていますので爪甲が白いことが重要です。
血虚で見られる5つの白と、主要症状が眼と月経、動風などであれば、肝血虚と診断できます。
2. 肝陰虚証
肝の陰液が不足し、陰が陽を制することができず、陰が少なくて陽が亢進した状態です。
気と血の虚はよく同時に生じ、血が少なくなると気が旺盛になることはなく、血が少ないと気も少なくなります。一方、陰が少なくなると、相対的に陽が亢進し、虚熱の証候が見られます。
肝陰虚ではどのような症状が出現するでしょうか?
眼の乾き、眼のかすみ、視力減退などの眼の症状や、手足のけいれんやしびれ、胸脇部の痛みは肝血虚でも肝陰虚でも見られます。では何が違うのでしょうか?
血虚では月経の量が減少し、ひどい場合は月経が止まります。一方、陰虚では胸脇部がしくしくと焼けるように痛いという症状が見られます。
肝血虚は寒に、肝陰虚は熱に偏った症状が出現します。病理上は肝血虚は脾と密接に関係します。肝陰虚は腎と密接に関係します。肝陰が少ない人は腎陰も少ないことがあり、治療では腎陰も補う必要があることがよくあります。
3. 肝鬱気滞証
肝の疏泄作用が低下して出現する証候で、以下の4つの症状が出現します。
①情志の症状 ・・・ 抑鬱、煩躁易怒、ため息をよくつく、喜ばない、気持ちが落ち込むなど
②月経の不調 ・・・ 早くなることも遅れることもありますが、一般には遅れて量が減少します。
③脹りと痛み ・・・ 胸脇部や乳房の脹りが特に月経前に出現します。
④痰気結塊の症状 ・・・ 痰があれば梅種気や乳腺腫、甲状腺腫などを伴うことがあります。
脾気虚が脾の基礎証であるのと同じように、肝鬱気滞証は肝の基礎証です。肝気鬱滞から痰気互結や陽亢、血オなどの様々な病態が発展します。
4. 肝火上炎証
実熱証で、病位は肝にあります。
肝火が上炎すると、どこに症状が現れるでしょうか?
眼によく見られ、眼が腫れて充血します。
肝の経絡は頭の側面を通るため、耳にもよく症状がでます。突然の耳鳴りや難聴などです。
その他に急躁易怒や口が苦いなどの症状が出現します。
脾の病では、食少、腹脹、便溏が同時によく見られます。
肺の病では、咳嗽、気喘、喀痰が見られます。
心の病では、動悸、心痛、不眠、多夢が見られます。
それに対して、肝の症状は多彩で複雑で、いくつかの症状だけで概括することができません。
全身の実熱の証候(熱・紅・数・乾・乱)を必ず伴います。胸脇部の灼熱疼痛、眼が充血して腫れて痛い、口が苦い、急躁易怒などの証候もまた、肝火の特徴です。
それでは肝火と心火の違いは何でしょうか?
火熱熾盛によって出現する各種の症状は、心火によるものと肝火によるものをどうやって区別すればいいでしょうか?
胸脇部の脹痛は肝に属します。頭、眼、耳の症状は肝に属します。
精神状態の擾乱や出血、小便の問題、舌のびらん、舌や口腔の灼熱痛は心に属します。
5. 肝陽上亢証
肝陽が上亢し、下で陰が不足して、上部で実、下部で虚となります。これまでの教材では肝腎陰虚によって肝陽上亢を生じるとされていて、陰が不足した後に陽が上亢する、つまり、陰の不足が主で陽の亢進がその次と説明されていますが、そんなことはありません。
私たちは今、肝陽上亢と呼んでいるのですから、陽の上亢が主であるべきで、そうでなければ、肝腎陰虚陽亢証のように呼ぶべきです。
肝陽上亢では、どのような症状が出現するでしょうか?
眩暈耳鳴、頭目腫痛、急躁易怒、不眠多夢、顔が赤く、目が充血する、頭が重くて脚が軽い、腰膝酸軟、舌紅少津、脈弦有力または弦細数・・・と他の臓の病変と比べて大変複雑です。
眩暈や頭重、頭目腫痛、急躁易怒が肝陽上亢の主症状で、顔が赤い、目が充血するのも陽亢です。もちろん病人は頭が重くて脚が軽いとは言ってくれません。孫悟空のように雲で空を飛ぶような感じとか、綿の上を歩いているような感じなどと上実下虚の症状を表現します。腰膝酸軟は陰虚の症状なので主症状ではありません。
肝陽は本来陽亢しやすいのです。肝気鬱結などいろいろな原因で陽亢しますが、肝の機能の面から言うと、疏泄過多です。肝気鬱結は疏泄不足で内部が実で外面は虚です。肝陽上亢では気血がすべて上に向かって上逆して、胆汁の分泌も過多になるので口が苦くなります。
すべてが上に向かうので内部や下部は虚になります。したがって上実下虚、外面が実で内部が虚になります。
肝火上炎と肝陽上亢の違いは何でしょうか?
肝火上炎は一般により急性で病状が短く、熱の症状が顕著です。
肝陽上亢は気血が上亢し、下部は虚します。これは正気の錯乱で、陽の機能の失調で、相対的には病状はやや慢性で、発熱があるとは限らず、眩暈耳鳴、頭目腫痛、急躁易怒が主要な症状です。
6. 肝風内動証
肝風内動証は、外風ではなく、内風であることを示しますが、原因については何も示しておらず、証としては不完全です。肝風内動証は、肝陽、火熱、陰虚、血虚によって生じ、以下の4つに分類されます。
①肝陽化風証・・・肝陽上亢を基礎に動風の症状が強く出たもの。
頭が揺れたり、歩行時にふらついたり、四肢がしびれたりします。
ひどい場合は突然昏睡になったり、半身不随になったり、ろれつ緩慢になります。
②熱極生風証・・・高熱によって風を生じ、精神に影響がでたもの。
手足が強直して痙攣し、後弓反張、眼球上転などが見られます。
③陰虚動風証・・・陰虚を基礎に手脚の震えやしびれ、痒みなどか出現したもの。
④血虚動風証・・・血虚を基礎に手脚の震えやしびれ、痒みなどが出現したもの。
7. 寒滞肝脈証
寒邪が肝の経脈に侵襲して生じる実寒証です。肝の経絡の走行部位に突然発症する激痛が特徴です。