津液の証候
1. 痰証
痰は津液の運行障害によって生じる病理産物で、一種の半凝固状態で、比較的粘稠で、流動性が小さく、気の流れに従って体のあらゆる場所に移動します。
痰がある部位では詰まったり流れが停滞したりします。
「脾は生痰の源、肺は貯痰の器」
と言われるように、痰の症候が最もよく見られる部位は肺です。
痰を吐き出す、ネバネバした痰が出る、のどの中で痰が鳴る、などの症状が見られます。
全身に貯まれば肥満になります。
子宮や精巣に影響すれば、不妊、精液の異常が出現します。
胸腹部に貯まれば、胸腹部の痞悶が生じます。
その他にも、膩苔、口が粘る、脈滑、食欲不振などが見られます。
痰が、気の動きに従って頭に影響すれば、癲、狂、痴、癇、頭暈を生じます。
それから、円くて滑らかで、しなやかなしこりも痰に属します。円くて滑らかなのは痰の特徴で、もしデコボコしたりその他の形状であれば、それは血オかもしれません。
以前、中国の中医学研究院に趙錫武医師がいた頃の話です。
1人の外国大使の婦人が子供ができずに世界中のあらゆる所に行ってもうまく行かず、中医研究院を訪ねてきました。先生は一目見て、太っているのがよくないと言いました。
西洋医学の視点では、女性が太るのはホルモンの分泌異常で女性ホルモンが減少していると言うことができます。
中医学的には、太った人は痰が多く、子宮にも痰が凝滞していると考えることができます。
ただし、「怪病には痰が多い」からといって、何でも痰と考えるのはもちろんよくありません。
弁証(診断)は症候を根拠に行うべきで、痰が多い、胸悶、肥満、苔膩、脈滑などの痰の存在を示す症候が不可欠です。
2. 飲証
飲も津液の運行障害によって生じる病理産物です。
飲とはどういう物質なのでしょうか?
「痰」は固体、半凝固状態です。
「湿」は気体。
「飲」は液体です。
飲は水と比べると少し混濁していて、
痰と比べると透明でさらさらしていて、
水と痰の中間に位置する液体です。
痰がどこにでも行くのに対して、飲の停留部位は限局しています。
飲は管腔内や空隙に停留して症状を生じます。
飲の停留部位は以下の4ヵ所です。
①肋間 (胸膜腔の中、胸水) ・・・懸飲
肋間が張る、咳をした時に痛い、体を動かした時に肋間が痛いなど (肺結核など)
②胃腸の中 ・・・痰飲(狭義)
水のようなものを多量に吐く、お腹がゴロゴロ鳴る、腹が張る・痞えるなど
③心包・肺 ・・・支飲
動悸、ぜいぜいして横になれない、咳をして透明さらさらの痰を吐く、
喉に痰の絡む音など
④四肢の皮下 ・・・溢飲
四肢の浮腫 (甲状腺機能低下症など)
飲邪が停滞すると、清陽を塞ぎ、陽気の運行を妨げるので眩暈を生じ、舌苔は白滑、脈は弦または滑です。眩暈は痰飲でよく見られる症状ですが、必要不可欠なものではありません。他にも多くの原因で眩暈を生じます。痰飲はそのたくさんの原因の中の1つに過ぎません。陰虚でも、陽亢でも、血オでも、血虚でも、気虚でも、陽虚でも、痰でも、飲でも、どれも眩暈を生じます。
3. 水停証
水停証は水液が停聚して生じる証侯です。
最も特徴的な症状は水腫、尿少の4文字で表されます。
水は低いところに流れるのが特徴なので、
朝起きた時には顔がむくみ、午後になると下肢がむくみます。
水はどうして停まるのでしょうか?
主に、肺、脾、腎、特に慢性的なものの多くが腎に、新しく生じたものは肺に密接に関係しています。脾は生痰の源であり、湿と密接に関係します。水液代謝には肺、脾、腎のすべてが関係し、特に腎、肺が密接に関係します。その他に血オも水停を生じる原因になりえます。
痰・飲・水・湿はすべて、水液の運行障害によって、水から変成してできたもので、痰飲、痰湿、湿飲、水湿、水飲など、はっきりと区別せずに使われることもあります。痰と湿の違いはとても大きく、痰は凝固状態で湿は瀰漫状態で本来は一緒にするべきではありませんが、臨床では苔膩、脈滑、胸悶、頭暈、体が重いなどの症状が、痰でも湿でも生じるのでまとめて痰湿と呼んでいるのです。