病が癒えるのは人体が自ら回復した結果ー不妊に関する問答
26歳の女性です。
結婚後3年妊娠せず、これまで、子宮発育不全や卵巣ホルモンの異常、排卵機能不全などと診断されていました。漢方薬や西洋医学をいろいろ試してみましたが効果がありませんでした。
問診によると、月経周期は規則的で帯下も正常で、生理痛もありません。飲食を慎まなかったときに胃のあたりに不快感が出現します。便通は正常で、睡眠にも問題はありません。
舌質は淡暗、舌苔は白膩、脈は細弦緩でした。
処方は温胆湯加味。
姜半夏12g, 陳皮12g, 茯苓15g, 枳実9g, 竹ジョ9g, 炒白朮 12g, 鶏内金12g, 炙甘草3g。
5剤を水煎して服用。
その時、側にいた学生が筆者に質問しました。
「先生、なぜ温胆湯を使う必要があると考えたんですか?」
先生「どのように考えるべきですか?」
学生「一般には腎を治療し、腎を補って排卵を促します。子宮の発育不良や卵巣ホルモンの機能不全はすべて腎虚が引き起こしたもので、補腎するのが正治であるべきです。あるいは肝腎の精血を補い、あるいは肝気欝結を解する薬を使ってもいいかもしれません。」
先生「患者さんがこれまで長い間治療して効果がなかった理由が分かりますか?」
学生「どうしてですか?」
先生「肝腎を重視しすぎたからです。これまでの医者は何度も誤り、下焦の肝腎の範疇から出ませんでした。土が万物を育み、中焦の脾土が健やかであれば、万物は自ずから育まれることを知らなかったのです。」
学生「ではどうして温胆湯なのですか、補中益気湯ではなく。」
先生「舌苔が膩だからです。膩苔には当帰と熟地黄はよくありません。
同様に人参と黄耆もよくありません。」
学生「先生はよく温胆湯を使いますが、温胆湯にはどのような作用があるのですか?」
先生「温胆湯は胆と胃を調和させる方剤で、化痰理気の方剤でもあります。」
学生「温胆湯で本当に不妊を治療できるのですか?」
先生「温胆湯では患者さんを妊娠させることはできません。ただ温胆湯によって、患者の体が調和し、妊娠できる状態にすることができます。身体が正常であれば妊娠するのは自然なことです。」
学生「女子は血を本としますが、温燥の薬によって陰血を燥傷する恐れはありませんか?」
先生「陰邪があれば、陰血を燥することはありません。証によって薬を使うのは男女とも同じです。」
学生「方剤の中に妊娠を助けるような薬を入れるのは如何でしょうか?」
先生「先ほども言いましたが、妊娠は自然なことなのであえて医者が妊娠を助ける必要はありません。医者の任務は人を治すことで、病気を治すことではありません。」
学生「どうしてですか?」
先生「病が癒えるのは人体が自ら回復した結果であり、医者の治療はただ人体が自ら回復するのを助けるか促進させるだけなのです。」